「ターミナル」 (1)

「ターミナル」 (1) その背景

いまさらながら、「ターミナル」である。

詳しいことをご存じない方がいないとも限らないので、少しばかりこの映画の背景について説明することから今日は始めようかと思う。(ご存知の方は、次の日の批評へどうぞ)

このトム・ハンクス主演の、大々的なハリウッド映画は、実話に基づいたわけではないにしろ、モデルとなった人物がいる。アルフレッド・メーハンというイラン人男性である。

 彼は、その自伝「Terminal man」(アマゾンでももちろん販売中)をそのまま信じるならば、イランからの奨学生としてイギリスにきたものの、反イラン運動に加わったことが本国にばれ、イラン帰国後投獄・追放を受ける。そのため、英国へ亡命者として入国の申請をしたものの、英国政府はこれを拒否。しかたなく難民申請のためにヨーロッパ各国を転々としている間に、亡命者許可証や一切の書類の入った鞄の盗難に合い、どこの国への入国もできないという状況に陥り、1988年、降り立ったフランスのシャルル・ド・ゴール空港に腰を落ち着けることとなった。

 彼はその後フランスへの入国許可を得たものの、あえて入国せず、以来16年間、(筆者の知る限り昨年11月までは確実に)ド・ゴール空港を住処とし続けている。メーハンは「ターミナル」映画化に際して30万ドルを手にしたものの、その後も暮らしぶりは変わらず、ド・ゴール空港のいわばシンボルとしてそれまでと同じ生活を続けているという。

 さて、この逸話が、原案アンドリューニコル(「ガタカ」「トルーマン・ショー」)にして、スピルバーグ監督で映画化され、名作曲家ジョン・ウィリアムスの音楽をふんだんに使ってハリウッドに行くと、どうなるか。それが、「ターミナル」である。


 東欧の政治的に不安定な小国、クラコウジアからNYの空港に降り立った中年の男、ビクター・ナボルフスキー(トム・ハンクス)。ピーナッツの缶を大事に抱え、数冊のガイドブックとともにNYに降り立った彼は、満面の笑みでパスポートを入国審査に出すが、入国拒否とされ管理局へとまわされる。担当は管理職候補の野心家ディクソン。英語の説明がよくわからないまま食事券とポケットベルを渡され、ターミナルに戻されたビクターが目にしたのは、ターミナル内のテレビニュースが伝える、祖国クラコウジアのクーデターのニュースだった。
 入国拒否の理由を悟ったビクターは、いつか許可が下りる日を待って、ターミナルでの暮らしを始める。なぜなら、彼には果たさねばならない約束があるのだ・・。


 ストーリーは、不倫で悩む美人フライトアテンダントアメリア(キャスリーン・ゼタ・ジョーンズ)との恋や、インド人掃除夫、機内食運搬の青年やラゲージ担当など、管理局のディクソンも含め空港内で働くさまざまな人々とビクターの交流を軸にすすめられる。ヨーロッパからさわやかでピュアな風が吹いてきて、人々を正しいほうに導く、というのが最も簡単な説明であろう。

 それでは明日は、批評というよりもむしろ、感じたことをつれづれなるまま、という観点から、この「ターミナル」について書いてみようと思う。