モナリザ・スマイル

モナリザ・スマイル  50年代を生きたアメリカ女性たち 

ヒラリー・クリントンの自伝に記されたアメリカの名門女子大ウィズリー校での話しをもとに、ジュリア・ロバーツキルスティン・ダンストといった有力キャストで描かれる、先駆的な美術講師と、生徒達の心の交流の物語である。


1953年、東部の名門女子大学ウィズリー校に、カリフォルニアから一人の若い女性美術講師が赴任する。キャサリン・ワトソン(ジュリア・ロバーツ)、UCLAで学んだ彼女は、志願してウィズリーに来たと言う。
生徒達(キルスティン・ダンストマギー・ギレンホール他)は、最高レベルの教育環境の中で学ぶ優秀なものたちであるが、その一方で、「大学を卒業した後はすぐに結婚をし、夫に尽くすのが女たるもの」という保守的な考え方の中で、自らの才能を開花させる事の無い人生を送ろうとしていた。
キャサリンはその静かなたたずまいながら、そんな彼女たちに、美術を通して新しい道を教えようとするのだが…。


モナリザ・スマイル」というタイトルは、「モナリザは微笑んでいるけれど、本当に幸せだったの?」という劇中の問いかけから来ている。

1950年代は、アットホームな家庭を舞台にしたコメディ「アイ・ラブ・ルーシー」が放映され、郊外型の住宅が次々と建てられた時代である。同時に、訪問販売やスーパー形式のストアなどが台頭しはじめた時代もあり、女性達は、郊外型住宅によって社会と孤立し、同時に、大量消費をすすめるテレビや雑誌広告で描かれる「理想的な女性像」(当時はいわゆる家電が売りに出され始めた頃でもある)に憧れ、縛られていた時代であった。夫と子供のために尽くし、素晴らしい家庭を作ることこそが女のつとめ−その価値感が主流の中では、名門女子大で最高峰の教育を受けた生徒達に必要とされるのは「夫の上司が家に来た時の応対の仕方」であり、卒業と同時に結婚、出産する事であった。

 実は筆者はこのウィズリー大の姉妹校の出身である。映画を見ながら、「母校と教育方針が似ているなぁ」と思っていたら(姉妹校がヒラリーの出身校であることは知っていたが、校名を覚えていなかったのである)なんのことはない、系列校であった。母校の学部や院を卒業してすぐに結婚していったクラスメイトたちをふと、思い起こさせる登場人物たちもいた−リッチな一家出身の才女で在学中にいち早く結婚しながら、プライドと押し付けられた女性像の狭間で苦悩するベティ(ダンスト)や、イエールの法学部に合格を果たしながら婚約者との間で悩むもの、「理想とされる女性像」を追い求めないがために男性の欲望の対象となって「ふしだら」のレッテルを貼られてしまうもの・・・押さえつけられた小さな空間の中で、快活な若さを、ぬきんでた知性を、縛り押し殺して生きていたのだ。

 ジュリア演じる美術教師キャサリンは、現代美術を彼女たちに見せることで、「価値観」というものが実は「時代によって作られた」ものにしかすぎず「真実」は別にあること、そして、ポロックに代表されるアクションペインティングから、生きることの躍動と自由を生徒たちに教えようとする。このへんの作品のテーマと絵画の絡ませ方は、モナリザからゴッホ、現代広告にいたるまで非常に巧みである。

 また、キャサリンが動というよりもむしろ静の教師であり、彼女が学校全体をすべてを変えてしまいハッピーエンド、という終わり方を見せないのもハリウッドらしからず、大変好感が持てる。生徒がキャサリンを通じて、女性でも「選択」があることを知ると同時に、キャサリン本人もそれを学び、成長する。主人公が「全てを改革する熱血漢」といった通り一辺倒な女性像でないのが、この映画をもっとも、そして主演のジュリア・ロバーツをもっとも魅力的にしているといえるだろう。

 地味な作品で、カメラアングルやカットが多少テレビドラマくさい安っぽさを持っているのは否めないが、よく練られた小品として、特に女性にお勧めしたい一品である。そう、これはなにも、1950年代アメリカでの話とは限らないのだから。

映画として 7/10
ジュリア・ロバーツ 9/10
キルスティン・ダンスト他若手女優 10/10