「ニル・バイ・マウス」  G.オールドマンの光と

「ニル・バイ・マウス」 G.オールドマンの光と影

 異常者役と犯罪者役をやらせたら右に出るものがいないといわれる性格役者、ゲイリー・オールドマン

 私は彼のデビュー当時の映画から見ているので(プリックアップ)20年近く、かなり長いお付き合いである。ハンサムなイギリス人ね〜と思っていたらあれよあれよとアメリカ進出、「レオン」敵役でブレイクの押しも押されぬ俳優に。そしてなぜかウマ・サーマンと結婚・スピード離婚。
このとき、イギリスの雑誌はこう語っていた。

両親が大学教授の上流階級のお嬢様ウマ・サーマンと、貧民街育ちのオールドマンが、うまくいくわけがない・・。

なんつーコメントや、と思っていたが、「僕の父に捧ぐ」とオールドマン自らがメガホンを握った、この半自伝的映画を見れば、そりゃぁ離婚するわ・・と納得してしまった。この映画は、それほどすさまじいのだ。
(※オールドマンは再婚・息子たちもできてハリポタに二つ返事で出るほどのマイホームパパである)


ロンドンの貧民街。女たちはたまのパブを楽しみに、生きるのに必死、という一方、男たちは酒びたりに薬浸り、金ができればストリップ劇場、強奪、乱闘。そういった光景が日常茶飯事の街だ。
 レイモンドは、失業中で酒びたり・薬びたりの日々を送る男。妊娠中の妻バレリーに暴力をふるってはウサを晴らす毎日だ。
 バレリーの弟ビルは元来は好青年なのだが、麻薬を覚え、レイモンドの部屋に盗みに入ったりと麻薬を買う金ほしさに見境がなくなっていく。
 男たちは語る。親父が嫌いだった、盗みをし、お袋に暴力を振るう。俺たちを愛してくれたことなど一度もなかった・・・・


でてくる男たちの父親の思い出話は、まるで彼らの姿そのままである。暴力的な父親の話をするレイモンド、子悪党だった父親の話をするビル。キライだった父親に自分がそっくりになっているときがついたときが、彼らの運命の分かれ道だ。

 レイモンドやビルはどうしようのない人間だけれども、小さく光る何かを抱えた人間だ。子犬をかわいがるビル。妻を本当は愛していたときがつくレイモンド。
 妻や母たちは強く気丈で、いたいたしく、暮らすのに楽ではない世界の中で、たくましくそれを笑い飛ばしながら生きている。

俳優陣の演技もすばらしく、また、そのカメラワークも、「覗き見」のような感覚で取られており非常に現実的で引き込まれてしまう。オールドマンはこれを撮りおえた後、演技のほうがらくだと語ったらしいが、これで終わらず、またぜひメガホンを握ってほしい。

そうそう、ビルがお金をせびる中に、「ゲイリー」という子供を連れた父親が出てくる。子供が遊ぶのを見守っているこの父親は、彼の父親のあるいは少しだけ優しかった一面なのだろうか。

俺は親父のような父親には絶対にならない、

この映画を撮ることでそう、大声で叫んでいるオールドマンの姿が、見えてくる作品である。

結論
500円。重いけど、すごい。
特に男たち、とりわけ父親・夫たちへ。