「アダプテーション」       創造すること

アダプテーション」   創造の耐えられない重さ

現実と虚構が交錯する映画といえば、最近では、先日紹介した「僕の妻はシャルロット・ゲーンスブール」などであろうか。あの作品では、シャルロット・ゲーンスブールだけが実在のご本人で、本人が本人を演じていたのが話題を呼んだ。

 「アダプテーション」の主役は、ハゲで小太りの中年男性、チャーリー・カウフマン。「マルコビッチの穴」の脚本家であるが、セットに顔を出しても誰にも気づいてもらえない地味な男。

 さて、一躍有名になった彼の元に舞い込んだのは、「蘭に見せられた男」という実在の蘭コレクター、ジョン・ラロシュを追ったノンフィクション小説を、脚本化(=アダプテーション)することだった。外見はそっくりだが、陽気な双子の弟ドナルドと対照的に、インテリだが融通の利かないチャーリーは、一日中脚本について思いをめぐらせる。

 書き手であり小説の中にも登場するニューヨーカー誌の記者、スーザン・オーレアン。彼女の追う不思議な魅力を持つ男、ジョン・ラロシュ。セミノール族と言う原住民の人々。そして、完璧なまでに美しい蘭と、その進化ーそれはアダプテーション(適応)の歴史とも言い換えられるーの過程。考えても考えてもちっとも脚本はすすまず、書いては捨ての繰り返しだ。

 一方オバカな弟はなにげに脚本講座で教わって書いたサスペンス・ホラーの脚本が150万ドルでハリウッドに売れ、有頂天。チャーリーはますます落ち込みつつ、考える。とにもかくにも、スーザン・オーレアン本人に会ってみるべきだ、と。そして彼が行動を起こしたとき、事態は意外な方向に進み始める・・。


と、ストーリーを読んで、どこまでが現実で、どこまでが虚構であるか、想像がつくだろうか。まず、「僕の妻は〜」とちがって、ご本人演じる本人は登場しない。ので、まず、チャーリー・カウフマンは、実在ながら、演じるのはニコラス・ケイジである。

それでは後は・・となるであろうが、驚くなかれ、まず、スーザン・オーレアンの「蘭に見せられた男」は、実在の本で、日本でもハヤカワから出版されている!もちろんオーレアンも、実在だし、ということは、本の中に登場し、後にチャーリーとかかわることになるラロシュも、実在。この二人を、メリル・ストリープクリス・クーパー(「アメリカンビューティー」のお隣の軍人パパ・「ボーンアイデンティティ」の敵役・「大いなる遺産」の主人公の育ての親/ 「アダプテーション」でアカデミー助演男優賞に輝いた)がたくみに演じている。ふむ、では、ドナルド・カウフマンは?そう、ドナルドは、アカデミーでチャーリーとともに脚本賞にノミネートされている・・・が、実は、主要登場人物の中で、彼だけは、非実在

 では、ストーリーは・・?ということになるが、この映画が出来上がっているから、カウフマンが、「蘭に見せられた男」の脚色を頼まれ、それを実際に書いたのは、真実。その小説が映像となっているシーンはもちろん、真実。でも、弟は実際にはいないし、後半の展開は・・・・ということになってくると、この辺の境界線は非常にあやふやである。とにかく、設定そのものに、虚構と現実が複雑に織り交ざっているのだ。

 また、チャーリーの日常を中心として描くストーリーもまた、(彼にとっての)虚構<脚本化して行く「蘭に見せられた男」>と現実<ハリウッドからのプレッシャー・弟の存在>が織り交ざって展開される。脚本家の製作の過程、その頭の中を垣間見る体験は、映画好きにとってはたまらないものがある。そして、「物書き」としての苦労。楽天の日記を書くのも「今日何かこう〜」なんていっている私でさえ、その苦労は痛いほど分かる。頭の中に展開するあの一連のイメージを文章にするときの、あの興奮と、脱力感よ!
 
 さて、そういった虚構と現実の曖昧さの両方を貫くのは、こういったメッセージだ。

 人は、何かに熱中して、または熱中できる何かを模索して、生きる。その終点には、完璧など存在せず、男も、女も、そして全ての生き物は、常に変化の過程ーアダプテーション(適応)を繰り返して、生を全うする。

 カウフマンのウロボロスに巻かれて、そんなことをぼんやりと考えていると、とんでもない展開が待っている。なんとも、つかみどころがない、それでいて深いテーマを持ったこの作品

結論

最高に魅力的!DVD買おうかなぁ。語ろうとおもったらいくらでも語れそうですが、見ていない人が多いと思うので、それはまたの機会にしましょう。

 カウフマンの優柔不断が続くので途中で我慢できなくなる人の分を差し引いて、400円で、見てあげてください。

 そして、作品の最後で引用される、弟ドナルド・カウフマンの脚本と、「ドナルド・カウフマンにささげる」のクレジットを忘れずに。
チャーリーの分身、ドナルドに、乾杯!