オペラ座の怪人 (感想・情報編)

 意外なことだが、アンドリュー・ロイド・ウェバーが「オペラ座の怪人」を映画化しようと思い立ったのは、そのブロードウェイ初演のときからだったという。ジョエル・シューマッカーに声をかけたものの、当時のウェーバーのパートナー、「オペラ座の怪人」の初代クリスティーヌであったかのサラ・ブライトマンとのごたごたによって頓挫、中断。それが15年のときを経てやっと結実したのが今回の映画化であった。

 「吹き替えなし」という前情報以外出演者などをまったく知らずに映画館入りした私は、そのキャストの多彩さにまず驚いた。クリスティーヌは、「ミスティック・リバー」でショーン・ペンの娘役を演じた少女であるし、ファントムはどうも「ドラキュリア」、だし、キンキン声のプリマ・カルロッタは「グッド・ウィル・ハンティング」のミニー・ドライヴァーだし、マダム・ジリーは「スリーピー・ホロー」の悪役奥様でおなじみのミランダ・リチャードソンだし・・・。「きっと、歌も演技も一枚上手の舞台俳優たちを使って映画を作ったのであろう」という私の想像を、見事に裏切った配役だったのだ。

 ふたを開けてみれば、クリスティーヌ役のエミー・ロッサムは実は幼少のころからメトロポリタンオペラに出演しており、演技だけで終わらせるのがもったいないほどの人材であったようだ。
 ラウル役のパトリック・ウィルソンはもともと舞台の出だからそつなつこなすとして、ジェラルド・バトラーはすこしばかりだみ声ながら、それを上手に生かしたテノールで歌い上げるし、ましてやミランダ・リチャードソンの歌声まで聴くことになるとは・・。
 が、キンキン声がすごいな、と思っていたミニー・ドライヴァーの歌だけは葺き替えであるらしい。しかしラストに流れるポップス曲を歌っているのが彼女なことを考えると、キンキン声くらいだせたのではないか、とも思ったのだが。

 彼らの歌唱力、演技力、ダンス。そのどれをとっても、文句の付け所のない出来である。

 そして、それをひきたてる、本物のオペラ・ガルニエよりも数段まがまがしく、絢爛豪華なセットと、「エリザベス」も手がけたアレキサンドラ・バーンのモダンで斬新でありながらロマンチックな衣装。また、「マスカレード」で見ることの出来る、美しく迫力のあるッダンサーたちの踊り。

 舞台でミュージカルをみるのとはまた違う、きらびやかさ、豪勢さといったものがこの映画の要となっていることは間違いない。

 ストーリーとしては、ビデオでみても差し支えはないのかもしれないが、「絢爛豪華さ」だけは映画館で見ないと失われてしまうから、やはり映画観で見ていただきたい作品である。

 最後に、ひとつだけ。
それは、ちまたでも言われているが、字幕のぞんざいさである。
戸田奈津子さんの訳は、超訳の域であるのはもう仕方がないとしても、今回は特に「超・超訳」であったかに思う。
 歌が前面に出ているから仕方がないにしろ、できればもう少し、ストーリー性を考えてつけてほしかった。ファントム・フリークでない私ですらそう思うのだから、ファンはそれはご立腹であろうと思う。いつかのビデオ化の際には、ぜひどうにかならないかと思うしだいである。

追記:歌は少しだけならここで数曲聴ける。
歌詞はこちらで。なんかあのへん変じゃなかった?と思うところがあれば、確認していただきたい。


映画として 7/10
絢爛豪華ミュージカルとして10/10
ストーリー性 6/10
ドラマチック性 8/10