シャーク・テイル

シャーク・テイル」  内輪受けのセレブ嗜好映画

かの職人集団 ドリームワークスによるフルCGアニメ。豪華な声優たちのキャスティングで話題を呼んだ作品である。


海底に広がる大都会リーフシティ。ここに暮らすオスカー(ウィル・スミス)は「いつかでなく大物になるんだ」が口癖の、洗鯨場で働く小さな魚。受付嬢のアンジーレニー・ゼルウィガー)は、いい加減なところはあるが心優しいオスカーに夢中だし、社長のサイクス(マーティン・スコセッシ)にとっても、眼の上のたんこぶながらなんとなく憎めない存在だ。
 一方、サメ・マフィアのドン(ロバート・デ・ニーロ)の次男レニー(ジャック・ブラック)は気が優しすぎて殺しも出来ず、兄と父親の悩みの種。そんなある日、オスカーとレニーの人生を一変させる出来事が起きる・・・。


上にあげたキャストの他に、オスカーを誘惑する美魚(びぎょ)にアンジェリーナ・ジョリー、クラゲの片割れにボブ・マーレーの息子ジギー・マーレー、ヨボヨボマフィアにピーター・フォーク、など、声優たちはまさに豪華としか言いようが無い。2004年アメリカ公開時、3週連続でボックスオフィスの首位を守り、1億6000万ドルに迫る興収を記録したというのも、この豪華なキャスティング、それぞれの声優を模した魚たちのアニメーション、 乗りのよい音楽、といったものを大大的に宣伝したプロモーションに惹かれて観客が足を運んだからであろう。
 映画の中では、ウィルスミス魚やスコセッシ魚、デニーロ鮫が海に置き換えられた人間の街を歩き(泳ぎ?)まわり、随所に「ゴッドファーザー」や「グッドフェローズ」といった映画のパロディなどが散りばめられていたりする。
 が、しかし、−だからどうだっていうんだ?と声を上げたくなるのが、この映画である。上にあげた三つ以外には何の魅力も無いのだ。
キャラクターの豪華声優陣とビジュアルの模倣具合はおもしろいが、キャラクターそのものには魅力が無い。上昇志向の強いオスカーは、確かに憎めない奴かもしれないが、いい加減でだらしない嘘つきで、ラストで多少の成長は見せるものの、その過程は極めて短絡的に描かれる。マフィアのドンは息子が「男らしく」ないことを受け入れられないのが、これもきわめて深み無く、受けいるにいたる。合間合間のつじつまがあっていないとか、そういことを言いたいのではない。とにかく、二流テレビアニメ以下の、プロットの薄さなのだ。
 もちろんクスっと笑えるシーンもあるが、パロディ系の笑い大元を知らないと笑えないものばかりともいえる。これは、アメリカ人でも100パーセントというわけにはいかない笑いのはずだ。
 そして何より疑問に思ったのは、いったいどんな客層をターゲットにした映画なのか、ということだ。お魚が楽しいの〜という年代の幼児には良いかもしれないが(しかし、メリハリが少ないし妙に人間臭いのが足を引っ張って、たいていの幼児は匙を投げるはずだ)、もう少し年齢が上の子供には、セリフに微妙なセックスや暴力のニュアンスが多いため、親としてはお勧めできない気分になる。それでは大人が、となると、筋が薄いため、最初は、「へぇ、この魚ウィルにそっくり」で喜べても、徐々に退屈になってくる。
 こう考えていくと、この映画で心底楽しめるのは、二つの人種しかいないのではないかと思えるのだ。
 ひとつは、セレブ礼賛の庶民たち。セレブが声をやっているというだけで、二時間過ごせる方々である。
そしてもうひとつは、作り手側本人たちだ。私はこの映画を見終わった瞬間に、二つの言葉が思い浮かんだ。「後期のおれたちひょうきん族」と、「とんねるずの生でだらだらいかせて」である。娯楽の作り手がビッグになっていき、その名前だけで視聴者を集めることが出来るようになると、そこに必ずといっていいほど起こる現象がある。視聴者のため、を意識しなくなり、作り手たちの中で「おもしろい」ことを優先して番組を作るようになっていくのだ。その「娯楽」はすでに視聴者のものではなく、作り手たちの「内輪」のものとなる。笑いは「内輪」の中で閉じ、それをみるたいていの視聴者にはさっぱりわからない。「内輪ねた」で回るようになった番組は、精彩を欠き、面白みを失う。

私は「シャーク・テイル」に、この現象が起こっているように思う。ハリウッド内にいる人物(セレブ)には、きっとすべてが「あれあれ!」という感じでおもしろいのだろう。「あいつこの声なんだぜ!」から、「あのセリフあの映画からだぜ!」「この音楽○○の替え歌だぜ!」までだ。一般人で、たとえアメリカ人でも、そのすべてを業界人と同じほど知っていて楽しめる人物は、きっと、少ないはずだ。ましてや、日本人大衆には・・・。

セレブへの憧れとその真実を描こうとしながら(全くの失敗であるが)、セレブに閉じてしまっているこの作品を作ったドリームワークが、「ひょうきん族」や「生ダラ」の二の舞にならないことを、せつにせつに願うのみである。

映画として 5/10
セレブで回れる人 8/10
ハリウッド・アメリカ音楽業界情報通 8/10