「パッション」宗教的背景(ユダヤ)

−これから見る人へ・もう見たけど痛い事しかわからなかった人へ

 さて、今日は「パッション」鑑賞の手引きである。
宗教的・歴史的なバックグラウンドについて話すことになるので、そのつもりでお読みください。でも、簡略に、世俗的に、そして口語体ですからね。
 と、もうひとつ。
もしもこれを読んでいるあなたが、クリスチャンであるとか、本格的に宗教・キリスト教を学んだ方であるなら、読む必要はありません。私はクリスチャンでも、その道の専門家でも無いので、おおよその概略を、物語としてしか語れませんから。
 ただ、私は、学生時代6年間ミッション系学校で、宗教教育に熱心だった学校の方針でさんざその話ばかりされた挙句、なぜか選択でも聖書の授業をとってしまったので、フツーの一般の方よりはキリスト教の背景はわかるかな、という感じです。ただーし、現在自宅にいませんので参考文献等もなく、頭の中に入っていることを書くことにはなりますー。(が大間違いは無いと思うのでご安心を)

 まず、見る人も見た人も、予備知識が無ければこう思うのではないだろうか。
「あのユダヤ人たち、なんであんなに怒るのー?なんで殺せまで言うのー?」
 背景がわかっている私でさえ、「おいおい」と思ったくらいである。これに答えるには、まずユダヤ人の背景を知らねばならない。

 もともとユダヤ民族は、今で言うパレスチナの付近に住んでいたのだが、暮らしのためにエジプト方面に移住。と、ここで奴隷としてとらわれ400年もの間憂き目にあう。映画で有名なモーセは、みなを連れてエジプトを脱出。その途中で神からの啓示を受け、ユダヤ教の芽が出る。(十戒ですね)
 その後100年ほどは普通に暮らせたのだが今度はアッシリアの支配を受け、バビロンにとらわれ、今度はペルシアだ、今度はシリアだ・・・ととにかく他国の支配を受けつづけた。もちろん奴隷同様の生活である。これが、約500年ほど続く。
 さてローマの支配下となった紀元前63年ころは、ユダヤの王も存在し、ユダヤの司祭たちも活躍はできたものの、やはり圧制の元であり、自由な身と言う訳にはいかなかった。しかも、ユダヤ教自体は組織ばかりが肥大化・権力化していたのがこの時代である。

 もともとユダヤ教聖典のひとつが「旧約聖書である」)では、預言者・メシア(救い主)という思想があり、この時点で1000年以上奴隷同様の暮らしをしてきたユダヤ人たちの間には、メシアへの期待感があったのである。(世俗的に言ってしまえば、「誰かが助けにきて救ってくれる!と思っていたということになるか)
 そこに現われたのがイエス(彼もユダヤ人だ)だ。しかし彼は貧しい大工の子であり(この時点で祭司たちは気に食わないのかもしれない)、公然と司祭たちを批判し、しかもユダヤ人だけでなく、神を信じるものは誰でも救われる、とのたまったのだ。
 ユダヤ人が求めたのは、「ユダヤ人を救ってくれるメシア」であったから、イエスの言うことを信じられないものにとったら、まさになんだこいつ!である。もともとユダヤ人は「われわれは神に選ばれし民」というプライド高き選民思想があるから(律法を守ることで神の恩寵を受けられるという、契約を結んだという考えだ)、信じれば誰でも救われる!という思想はいや!!!と思ったらとことん嫌だったに違いない。
 司祭たちはユダヤ人たちの中に自分たちで無くイエスを信じる者たちが増えていくのが面白くない。自分たちの権威の失墜への恐怖心。何よりも偉いユダヤ律法をつかさどる自分たちを公然と批判するイエスへの憎しみ。

 それがイエスを処刑へと押しやった、ユダヤの原動力になったのだ。

 この映画ではユダヤ司祭たちがあまりに冷淡にかかれていると批判があったらしいが、よく見てみれば、権力に突き動かされている司祭たちと、純粋に律法を信じ公平な目を持った司祭たちもいることがわかる。が、彼らの意見がとおらなかったのだ。メルギブソンはその点をはしょらず、少しながらきちんと描いていて、偉いなと感じさせられた。

さて、もうひとつ感じるであろう質問「なんでイエスさん、ここまでされても耐えたのー?」には、長くなったのでまた明日。
(え?そんなこと感じませんでした?だって私だったらとっとと痛くないほう選びそうだから・・・)

余談:イエスの死後ユダヤ人はローマへの反乱をするが、これに負けてローマから追い出される。そのために、ユダヤ人は世界各国に離散し、ますますもって流浪の民となってしまったのだ。さて、それぞれの国の住民たちは、どこからともなくいついた根無し草のくせに、商才もあり頭もいいユダヤ人たちが、いつのまにか「儲かってまっか」「ぼちぼちでんな、ウハハ」になっていくのがおもしろくない。しかもキリスト教が広まると「あいつらの祖先がイエスを殺したんだぜ」まで加わり、まぁ、ストレスが爆発すると、折に触れて迫害をすることになる。(気持ち的には、わからないでもない。悪いことだけど。)ユダヤ人虐殺の歴史は、こうして続けられたのである。(運、わるっ・・・)

しっかし日本人の10分の一の人口で、10倍のノーベル賞受賞者を輩出しているユダヤ人って・・・やっぱりすごい。(しやっぱ、ねたまれるんだろうなぁ)ちなみに私の親友もユダヤ人。NYで両親がそれぞれ会社を経営し本人は獣医さんである。うーんやっぱリッチでかしこい!(ちなみにお父さんはトラップ一家と一緒にオーストリアから逃げてきたそうである)