「キル・ビル」        

キル・ビル    ニッポン大衆文化で、殺っちまいな!

この映画を見るにあたって、心に留めてほしいことが二つある。

ひとつ 日本が日本らしくないとか、ウマサーマンの日本語が下手だとか、ルーシーリューは着物が似合わないとか、そんな野暮は言いっこ無し。
ふたつ これはいわゆるハリウッドアクション作品ではなく、タランティーノの、日本ポップカルチャーへのオマージュと心え、その気持ちありがたく受け取るべし。

 この二つが守れない人にとって、この作品は、単なるできそこないB級映画になってしまう。それがキルビルである。

 あなたは七十年代に青春時代をすごしただろうか。もしそうなら、あなたはこの映画を他の人の数倍は楽しめるだろう。なにせこの映画はその時代の任侠物や、タランティーノも認めるところの、「女囚さそりシリーズ」とか、「プレイガール」とか、そういった当時の日本が愛した大衆文化を、ハリウッド資本で復活させ、世界にそのよさを広めようという、いわばプロパガンダなのである。(大げさに言えばだけんど)
 ちなみに、ももちきは当時はまだ幼児。ところがどっこい、東京12チャンネルは、私が小学生のころなぜかほとんど映画ばかり流していた。そして私はありがた〜く、女囚さそりシリーズを、真剣に、おそらく全作品見てしまったのである。(おもしろかった!!!)任侠物も相当見たし、鈴木清順ものも(ぽけーっと)見たし、ついでにフランキー堺の駅長さんシリーズや、植木等の無責任シリーズもほとんど見た。そのおかげで、この映画の何たるかがとてもはっきり見えたのである。

 結婚式の教会で、身重ながら殺されたザ・ブライド(ウマ・サーマン)・・は奇跡的に四年後に病院で目を覚ます。彼女の人生をずたずたにしたのは、他ならない、彼女の恋人ビルと、彼が当時率いていた暗殺団の仲間であった。彼女は復讐リストを手に、現在は日本でやくざの姉御となったオーレン・イシイを筆頭に、ひとりひとり確実に血祭りに上げていく。そう、ビルを殺る まで・・・。

2は私は見ていないのだが、こちらはしっかりラブ・ストーリーであり、ウェスタンと香港映画へのオマージュとなっているらしい。
 ウマ・サーマンの殺陣はがんばっていて、それでなくてもでかいモデル出身の彼女がますますでかく見えるように工夫されたカメラワークは圧巻である。日本映画のお約束、「刀を握れば百人切り」「階段落ち」「障子に飛び散る血」「雪と刀」などはきっちりと押さえられており、タランティーノの日本映画おたくぶりにただただ感服である。
 「女囚さそり」では無口な女主人公が、復讐のためにただただすさまじく戦い、血はあくまでも吹き出し、肉をざっぱりと切り落とす。画像はアップでとまり、時に荒いスローモーションとなって目に焼きつく。
 それをタランティーノ・スタイリッシュで、そのまま再現した。それが「キル・ビル」なのだ。
 また、賛否両論あるらしいが、オーレン・イシイの生い立ちは、その部分だけアニメで語られる。監督からの、日本ポップカルチャーへの忘れてはならない賛美といったところだろうか。

 この映画を楽しめるか、楽しめないかはあなたしだいである。ちなみに、若ければ若いほど、これはギャグ映画に見えてしまうかもしれない。が、本当はこう言ってあげたい映画である。

タランティーノ、ありがとさん。

結論
あなたが70年代を生きたのなら、いくら払っても郷愁の代金である。
心構えが守れる人には、300円。それが無理な人には、ギャグ映画として、50円の価値で。