「ドーン・オブ・ザ・デッド」     

ドーン・オブ・ザ・デッド」  会話のきっかけに。

演技力では定評のある女優、サラ・ポーリーを主役に置き、ロメロの最高傑作をタイトルもそのままにリメイクしたのが、この、「ドーン・オブ・ザ・デッド」である。


 看護婦アナ(ポーリー)は一日の仕事を終え、夫が待つ自宅へ。ラジオやテレビではなにやら不穏なニュースが流れ始めているが、幸せな一般人の彼女の目にとまらない。そして、朝。目覚めた二人の前に現れたのは、血まみれの近所の少女。何があったんだ?と駆け寄る夫に少女はしまみれの歯をむいて襲い掛かり、夫は死亡。しかしアナには、夫の死を悼む猶予はなかった。なぜなら、夫はすぐさま生き返りアナに襲い掛かってきたからだ。そして外でも、同じ光景が広がっていた・・・。


名作であるロメロのオリジナルと比較してこの映画をこき下ろすことはとてつもなく簡単である。オリジナルに勝るリメイクというのは、そう簡単に見つけられないからだ。

また、オリジナルのことを忘れ、単純に映画としてのできも、手放しでは褒められるものではない。それは、ゾンビ増殖→ショッピングモールへ→ひたすらに戦う生存者 という単純明快なストーリーでありながら、その統一感の無さが原因だ。

主演はサラ・ポーリーであるが、生存者の中のワン・オブ・ゼムに沈んでしまい、せっかくの彼女の卓越した演技力が全く生かされていない。(上に彼女がやけにふけて映っている)

音楽は、「アメリカンにクールに」と思うあまり、あまりにミスチョイスで、妙なところでギンギンに流れ始めるため、高揚感どころか、逆にチープ感ばかりかもしだしてしまう。

すばらしいセンスの映画のタイトルバック−出演者やキャストの赤文字の名前が風に吹き消され血滴となるーにはじまり、サブリミナルぎりぎりのところのフラッシュバックを上手に取り入れ緊張感を高め、象徴的なニュース映像や、「死者は墓場からあふれたとき地上をさまよいだす」といった聖書の言葉を効果的にさしはさめて、スタイリッシュ・ホラー風に盛り上げておきながら、急にテレビドラマのようなちゃちな展開になって、盛り下げる。

そのような統一感の無さ、がそこここに現れるため、なんとなく、まとまりがない。

が、しかし、単純にホラーとしてみた場合、製作者側はあるひとつの焦点だけはしっかりとはずしていない。それは、「ゾンビジャンルのホラー映画」である点だ。ゾンビ本人の描き方には、なんの手抜かりもないのである。

この映画のゾンビは、とにかく、走る。なにかの化学物質で変異したとかではない、ただの死者の生き返りなのだが、少し鈍いものの(一回死んだのだから体がだるいのだろう)、生肉を求めて、とにかく走る。そっと近寄って後ろから襲うくらいの知恵はあるし、小さな隙間から体を縮めて進入するくらい朝飯前だ。「ちょっと疲れてて今日はぼんやりしてるけど、どうにかね」、そんなたたずまいのゾンビたち−つまり、姿は別としても、この映画のゾンビたちはなにかとても人間的なのだ。アメリカの検閲で人間虐待としてひっかかり、「ゾンビは人間ではない」と説明するのに製作者側が苦労した、とは聞いていたが、そう、確かにこのゾンビは人間そのままなのである。

生存者たちが立てこもるショッピングモールは、ロメロの先鋭オリジナルのときから、消費社会の象徴であったが、生前は、消費を楽しみにその中でひしめきあっていた彼ら(今はゾンビ)が、今度はその外を取り囲んで、セール品を並んで待つ客よろしく、安くておいしい生者たちを求めて、ひしめきあっている。そのうつろさ、薄気味の悪さ。
 そして「新鮮な生者満載!」のトラックが来たときの興奮のすさまじさ。「象徴的」を通り越して、通常のわれわれそのものである。

死して生き返ったときにまず、一番身近な人へと向うのもなんとなく人間らしい。心に残ったもののところにまず向うのだ。そう、幽霊ではなく、ゾンビとして。

バタリアン以降のゾンビものにはつきものの、「愛するものがゾンビになる哀しさ」というゾンビメロドラマ、もしっかりと描かれている。この映画で一番上手に描かれている部分ではないだろうか。思わず涙するほどだ。

暇をもてあました生者たちが屋上からソンビの撃ちっこをするなどシニカルな部分の描き方やセリフも、小粋である。

こうして見てみると、統一感がなくアラもあるものの、ストーリーの明確さと、ゾンビ本人の描き方への熱意から、ホラー映画としてはまずまずの及第点を挙げてもいいのではないかというのが私の結論だ。

そして何より、ともに見た人と、こんな会話が出来るのが一番の利点である。

「この映画さぁ、いいんだけど、なんか、バタリアンやらバイハザとかさぁ、あーゆーのとおんなじじゃん?ほら、28時間とかさぁ。使い古されてるって感じ?」

「なんだよ知らないのー?これ、60~70年代にロメロって監督が始めて作ったゾンビ映画のリメイクなんだぜ!だから、このオリジナル版が、ゾンビ映画の最初の一本で、そのリメイクだから逆に使い古されてる気がするんだよ。本当は、さっき君があげた映画全部が、ここからきてものってことさ!そもそもオリジナルのころは、まだエイズもない時代で、ショッピングモールすらできたばかりの時代だったのに、ロメロって監督が象徴的に・・・・」


なぜこの映画が今この時代のアメリカでリメイクされたのか・・?そんなことまで話を広げながら、見てほしい一本である。


映画として 6/10
会話のきっかけとして 9/10