「恋愛適齢期」   

恋愛適齢期」  一筋縄ではいかない恋の行方

ダイアン・キートンジャック・ニコルソン、脇役にキアヌ・リーブスという豪華メンバーで話題を呼んだ、「恋愛適齢期」(Something's gotta give)である。


ハリー(ニコルソン)はすっかり熟年の男性だが、いまだに未婚のまま、若い女性としか付き合わないのをモットーとするプレイボーイ。新しい彼女マリンと彼女の母親の持つ海辺の別荘で甘い週末を過ごすべくいそいそとやってきたのもつかの間、仕事に来ていたマリンの母エリカ(キートン)と遭遇、ともに週末を過ごすことになるが・・・。


 ハリーとエリカがお互いの「作った顔」への嫌悪感から「素の顔」に興味を抱き、最終的に愛情をはぐくんで行く様子を、洒落た会話と軽妙な笑いを通して、ニコルソンとキートンの「老いらくの」さらっとしていながらも熟練したコメディアン・コメディエンヌぶりで魅せてくれるのが、この映画である。

 この映画は、二人の有名俳優が海辺の家でさっさと恋に落ちそのままハッピーエンド、という単純なストーリーではない。
 劇作家エリカのファンであったことから彼女を愛し始める青年医師ジュリアン(キアヌ・リーブス)や両親の離婚の心の傷が大人になってからの恋愛にまで影響している娘のマリンなどをからめつつ、嫌悪と惹かれあいを繰り返す紆余曲折の末、それぞれへの「思い」によって主人公たちが大人の成長を遂げる、という、非常によく練られたプロットをもつ一級の「劇」なのだ。(ただし、その成長は、一般に言う「大人の理想」とは逆を行くように感じられるのだが)

 たとえばエリカのタートルネックのエピソードなどは、「笑えるシーン」であるのだが、タートルネック=彼女の鎧という象徴を通して、その後彼女が変貌を遂げて行く、といった象徴的な意味もしっかりとになっており、この作品が実はラブコメディの体裁をとりながらしっかりとした「意味」をもつものであることが伺える。

 脚本・監督・製作をかねたのは、「プライベート・ベンジャミン」「赤ちゃんはトップレディーがお好き」「花嫁のパパ」「ハート・オブ・ウーマン」などの脚本で知られるナンシー・マイヤーズ。今回の作品は、「女性であること」や、「男性と女性の感情的な行き違い」などを常にテーマにしてきた彼女のそれまでの集大成ともいえる。劇作家であるエリカが自分の周りの人間を、ハリーへの腹いせから舞台にしてしまうエピソードなどは、まるで現実と虚構が交錯するようだ。

 映画のラストには、実際の名前や実在の人物と類似した点があっても、この物語はフィクションであり・・といったことがつらつらと出てくることを考えても、この作品がマイヤーズ(もちろんエリカとほぼ同い年である)の実人生とかぶるのではないかと思うと、「私小説的映画」としてなかなか違う意味でも楽しめる作品ではないかと思う。

 また、この映画のもうひとつの楽しみは、娘マリンの勤め先があのオークションの老舗クリスティーズであり、エリカやハリーの家に飾られた美術品が美術館や個人蔵の一流品であることなど、そのラブコメディーの必須条件である「センスのよさ」もまた大人味に手を抜いていないことであろう。

 残念なのは、マイヤーズ本人がセレブだからなのか、非常に「リッチ」な世界での恋物語であるということか・・・いや、だからこそ、大人の夢物語としても人気の高い作品なのかもしれない。

いずれにせよ、そのよく練り上げられたプロットと、俳優陣の軽妙な演技にと、注目すべき作品であるのは間違いない。

 ラストの場面で、これは必要があるのだろうか?と感じさせられたのは山々だが、典型的な「アメリカン・ファミリー」(「ユーガッタメール」でトム・ハンクスが、小さな子供が自分の祖母であると説明するときに言う言葉だ)を描いたとして、そしてこれがおそらく私小説的な意味を持つ作品であることを考えれば、しかたがないのかもしれない。

映画として 8/10
ブコメとして 7/10