「下妻物語」

下妻物語」      たいへんよくできました  

嶽本野ばら原作の不思議小説の映画化である。

 レースのパラソルにボンネット、ロリータファッションに身を包むロココ命の少女、桃子(深田恭子)。彼女はコテコテのチンピラ家庭出身だが、「心はいつもお仏蘭西」とばかり、現在は茨城県下妻というど田舎で暮らしている。
 大好きなロココ服を買うために彼女は父親がかつて売っていたベル○ーチのばった物を売ることにするが、そこに現れた客は、バリバリのヤンキー少女、いちこ(土屋アンナ)。嬉々として買い物していったいちこであったが、なぜかその後も、いちこは桃子の家を訪れるようになる・・・。

 姿も考え方も正反対の二人が親交を深めていく、簡単に言ってしまえば青春物語なのだが、なんといってもロココ少女とヤンキー少女の出会いは、ミシンとこうもり傘の出会いほどの衝撃である。
 原作どおりの極端で細かなキャラクター設定に(それは姿だけでなく、二人の生育暦にまで及ぶ)ミュージカル風、お仏蘭西風、アニメ、ビデオカメラ風、といったさまざまな形態をさしはさんで展開するテンポの良いストーリー、そしてパチンコ屋だろうが田んぼだろうが、美しい色と洒落たアングルの映像。映画として、多少冗漫なところはあるものの、非常に良く出来た作品である。もちろんいたるところに笑うところあり、(いちこの頭突き、ジャスコ!など)ハラハラあり、感動あり、とにかくなんでもありで、またそれが、おいしくてお得なお菓子の詰め合わせ(マドレーヌとうまか棒が一緒に入った箱ではあるが)のようにうまく詰まった作品なのだ。

 主人公の二人も良くがんばっている。深田恭子は、その「語り」の下手さがこの作品一番の欠点となっているのだが、ラストの山場は、やはり彼女のあの「目」あってのものだと思うから、何も言うまい。それに、ロリータファッションと、「超個人主義」をイヤミ無く演じられるのは屈託の無いアイドルならではだ。土屋アンナのヤンキーはこの上なくすごみがあって、おそろしいほど三白眼で、そしてかわいらしい。話し方からつばの吐き方まで、見事になりきったということで、この映画最大の見物だろう。

 ゲスでどうしようもない世界(と桃子が思っていた)からの逃避のためにロココという夢の世界に浸り、超個人主義を貫き何者にも心を動かされないももこと、普通の家出身でありながらヤンキーへと身を投じ、何事にもあつくなり恩義を重んじるいちこの二人は、両極端であるからこそお互いから何かを学び、成長して行く。その様を、涙と笑いと、たくさんの「はぁ?(笑)」で見せてくれるこの作品は、いくつかの欠点はあれど、本当に「よくできました」な映画だと太鼓判を押そう。中島監督の、次作に期待である。


映画として 8/10
コメディーとして 10/10