「ルナ・パパ」

「ルナ・パパ」  奇想天外・荒唐無稽・抱腹絶倒

1999年のドイツ=オーストリア=日本合作の、東京国際映画祭最優秀芸術貢献賞受賞作品である。


舞台はタジキスタン、砂漠に囲まれた典型的な田舎町である。戦争で頭がおかしくなった兄(モーリッツ・ブライブトロイラン・ローラ・ラン」「ES」のドイツ人俳優)の面倒を見ながら女優を夢見る、歌と踊りが大好きな少女マラムカットは、満月の夜、お互い顔も見えない中で俳優と名乗る男と幻想的に結ばれる。ほどなくして妊娠に気づいた彼女は村の医師を訪ねたものの、医師は偶然にも流れ弾に当たって死亡。仕方なく父親に妊娠を打ち明けると、「父なし子」は恥だから「父親をさがしゃいいんだ!」と息巻いた父親先導に、家族三人車でほうぼうを「父親」探しで奔走することになるが・・・・

奇想天外・荒唐無稽・抱腹絶倒−このそれぞれがあてはまる映画なら、またこの中の二つがあてはまる映画なら、いくらでも思いつくかもしれないが、この三つが同時に、となると、真っ先に思い浮かべる映画がこの、「ルナ・パパ」である。

 もちろん香港映画やインド映画のあの「びっくり箱」的なおもしろさの映画はいくらでもあげられるかもしれないが、そのドタバタと矢継ぎ早におこる出来事の中に、さりげない多くのテーマ−戦争や、紛争や、村共同体の狭い価値観、女性差別など−を盛り込みつつ、ファンタジー性を軸としながら、上の三つを満たす映画、となると、まず「ルナ・パパ」しかないのではないか、と思わせられるほどだ。

 これだけの盛りだくさんであるから、映画のまとまりであるとか、統一感であるとか、そういったものは確かにかける。私もはじめてみたときは、偶然につけたBSで口をあんぐりとあけたまま、最後まで目を離せずに見てしまった。なんでそこまで次々といろいろなことが起こらなければならないの?この人たちどうしたの?そして何より、このラストは、ぶっ飛びすぎだろう・・と。

けれど全編そのどたばたを笑いながら、そして手に汗を握りながら見ていると、この映画にちりばめられたテーマははっきりとした色彩をはなってくるし、ラストもより意味のあるものとなってくるのだ。

紛争地帯でありながらイキイキと過ごす人々。その中でも夢を見る少女。戦争で精神を病みながらも、「真実」を見抜く力がある兄に、愛情深いながら典型的な男性中心の村社会意識を持つ父親。「差異」や共同体のルールから少しでも逸脱するものを決して許そうとしない村社会の人々、そしてそれにはまろうとしてもどうしてもはまれない少女と、その兄・・。

これを美しくも暗く重くしようとおもえば、いくらでも映像化出来る。けれど、「ルナ・パパ」は、このテーマをあくまでも「荒唐無稽・奇想天外・抱腹絶倒」に料理した。タジキスタンをバックに映像はひたすらに美しく、テンポは信じられないほど軽快で(これは、先日書いたカンピオン監督に見習ってもらいたいほどだ)俳優たちはイキイキと演技をしている。先の三つだけにとどまらないこの映画の「びっくり箱」は、パンドラ・ボックスよろしく、箱から全てが出てしまった後でも、そこになにか大事なものが残っている・・そんな観を抱かせる、映画なのである。

レンタル店で借りるもので悩んだときには、是非お奨めしたい一品である。

映画として 7/10
実のあるビックリ箱として 10/10