「ジャッキー・ブラウン」

 「ジャッキー・ブラウン」  

クエンティン・タランティーノ1997年の作品である。


 黒人スチュワーデスのジャッキー・ブラウン(パム・グリア)は、密売人の売上金をメキシコからアメリカに運ぶ副業を持っていた。だが、ひょんなことから逮捕され、捜査官レイ(マイケル・キートン)に密売人オデール(サミュエル・L・ジャクソン)の逮捕に協力するよう強要されることになる。保釈金業者(ロバート・フォスター)を巻き込んで、げんナマをめぐってのだましあいが幕を開けた・・・


ジャッキー・ブラウンを演じるのは、アメリカで70年代にカルト的B級女優として人気を博したという、パム・グリア。私も若い頃の動く彼女はまだ未見であるが、写真でみても、スタイルから何から本当に美しい、超B級女優さんであった。当時の作品「フォクシー・ブラウン」や「コフィー」では、これでもかというほどのお色気を、彼女中心に展開する話の中で振りまいていたらしい。

 40をすぎた彼女には、その魅力は、もはやない。タランティーノが成功をしたからこそこの企画も通すことができたのだろう、と言いたくなるほどだ。

 が、ストーリーはエルモア・レナード原作であるから、手の込んだ物語であるし、もちろんタランティーノぶしも光っていて、楽しめる。

 脇を固める俳優陣もまたすばらしい。密売人役のL・ジャクソンは、怖いだけではなく「少し頭が悪い」風の悪人を軽妙に演じているし、その相棒を演じるロバート・デ・ニーロは、もちろん顔の表情ひとつで刑務所あがりのこの男の「びびり」を完璧に演じてみせる。ジャクソンの愛人役のブリジット・フォンダは、父親の出ている映画を見ながら(この辺がタランティーノのにくい演出だ)、あくまでも「安い」女ぶりをあますことなく発揮している。キートンの捜査官も、「あまちゃん」な雰囲気を実にうまくかもしだしている。

 しかしこの映画の脇役で最も輝いているのは、なんといってもロバート・フォスターという熟年の俳優である。
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彼はどちらかといえばB級映画の脇を固めてきた長いキャリアのある俳優であるが、その、たたずまいがいい。まなざしがいい。セリフがたくさんあるわけではないのだが、さも物腰の柔らかい保釈金業者(保釈金金融業・保釈人が逃げないよう監視まで行うハードな仕事である)でありながら、危険を冒してきた男のハードボイルドな輝きを瞳の奥に、ふと、垣間見せる。同時に、失った若さや恋への憧れ、といった淋しい熟年男の日常をそのシワの中にただよわせる。この存在感は、圧巻である。
 作品を見終わったあとにしったのだが、この作品で彼は、オスカーの助演男優賞にノミネートもされたのだという。この映画最大の見物はロバート・フォスターだ、といっても過言ではないように思う。

さてこういった俳優たちに囲まれると、パム・グリアの見所は全くといっていいほどない。タランティーノはいつものオマージュで、ひときわ彼女を際立たせようと演出をするけれど、いかんせんかつての彼女の輝きはもう失われているのだ。それは彼女が年をとって醜くなったからではない。彼女は今でも美しいのだが、輝きがない。たとえば年をとってからのほうがずっと輝いている女優・・ウーピー・ゴールドバーグでもいい、ダイアン・キートンでも、ヘレン・ハントでもいい・・・そういった女優たちにあって彼女には無いものがあるのだ。その物悲しさ。それがこの映画の第二の見所なのかもしれない。

ロバート・フォスターパム・グリアを見初め、その後姿をそっと見つめるその目・・・それがタランティーノ本人の、現在の彼女への答えであったのかもしれない。


クライム・アクションとして 6/7
タランティーノ・ムービーとして 7/7