「ポーラー・エクスプレス」

 「ポーラー・エクスプレス」  動く絵本

ポーラー・エクスプレス」は絵本作家クリス・ヴァン・オールズバーグ原作(彼は映画「ジュマンジ」の原作者でもある)の「特急北極号」の映画化である。ハリー・ポッターが実写で(もちろんCG合成だが)できる時代であるから、実写でもゆうに可能な映画化であったのを、トム・ハンクスロバート・ゼメキス監督が、「原作の幻想的な雰囲気をそのまま残したい」(原作はパステル画の実に不思議な世界観を持った絵本である)と、登場人物にいたるまで全編フル・CGで臨んだ、目をみはるほどの意欲作である。
 
 使われた技術は、ディズニー映画などが最近とりいれている「モーション・キャプチャー」という技術。これは、ボディースーツに球体(これで光=動きの方向を感知)がたくさんついたものを着用し、ハメコミのブルーバックで演技をすると、パソコンがその動きの全てを3Dで取り込み、原画にインプット、原画が俳優のした動きどおりに動くようになる、といういわば新しい形の「アニメーション」である。このやりかたであれば、撮影用の(映画には反映されない」セットさえ大きくすれば、大人が子供を演じることも可能である−−ということで、今回はトム・ハンクス本人が主人公の少年に車掌、サンタクロースなど5役を演じるという離れ業を見せている。
 ディズニー映画などの省略化された戯画風のマンガではなく、リアルな油絵風の人物画にこのモーションキャプシャーを利用しているため、登場人物たちは「絵でありながら本当に生きているかのよう」(アンリアルなのにリアルであること・・ファンタジーやSFの基本である)な動きや表情を見せているのが、この映画の見所のひとつである。また、もちろん「北極号」はまさに目の前を駆け抜ける機関車の風格そのままに所狭しとスクリーンをかけめぐるし、しんしんと降る雪の情感などは実写さながらである。(が、絵であることが分かる、のだ)
 最も楽しいシーンは「ホットチョコレート」が車内の子供たちに振舞われるシーンだが、これももちろんモーション・キャプチャーでとられたもの。実際にダンサーたちがやった動きだとおもって見ると、ただのCGではない迫力が余計に楽しめると思う。


ストーリーは・・

サンタを疑い始めた10歳の少年。イブにつきもののサンタさんへのお夜食の準備も妹に任せ、猜疑心一杯で床に就いた。サンタなんていないんだ・・・・
と、そこへ機関車独特のあのシューシューという轟音が。あわてて外に出てみると、そこにいたのは黒くて大きな機関車「ポーラー・エキスプレス」と、口ひげの車掌。すでに中にはサンタに会いに行くためのこの列車に乗り込んだ、たくさんの子供たちがいた・・・。


 私個人の話をすれば、始めてみた映画が「恐竜百万年」(世界で最初の特撮映画のひとつである)であり、「シンドバッドトラの目大冒険」が生涯の一本の人間であるから、CGやSFXものというのは見逃せない映画だ。しかし実は、あまりアニメ系CG作品に興味がないから、「ロジャーラビット」も見に行かなかった。「シュレック」は、よくできているけれど、やはり絵がね・・・と思ったものだったが、この「ポーラー・エクスプレス」には、文句のつけようがないようにおもう。いや、もちろん、来年かさ来年に映画化されれば、おそらく表情までまるで完璧な生きた人でありながら油絵風である、というこの雰囲気をより正確に、より美しくCG化していたのではないかという欲は残るが、それを押さえれば、これ以上の作品は今までに見たことがないほどのできばえであるように思う。
 幻想的で美しく、絵であると分かるのに、次の瞬間には忘れてしまう・・そんな映像世界なのだ。登場人物たちはどうしてもCGくさいところがあるのだが(そこに私の欲がうずくのだが)、少し離れてみたときのたたずまいは生きた人間そのままである。

 そういったCG/映像的すばらしさに加えて、もちろん原作から引き継がれたテーマ(これについては弱めにさっぱりと主張されていて、そこがごり押しになっていないところはある意味評価していいのかもしれない)も描かれているし、ロバート・ゼメキス監督作品ならではのほのぼのとしていながら少しハラハラさせる盛り上げ方(「フォレスト・ガンプの羽が好例か)、ポーラー・エキスプレスが巻き起こす波乱万丈のジェットコースタームービーさながらの展開、など、他の見所もしっかりと作られている。

大好きな絵本を動かしてみた・・そんな大人たちの子供心が泣かせる、作品である。

クリスマスのこの時期に、大人が見ても、子供が見ても、楽しめる「美しく楽しい」一本であり、「MR.インクレディブル」の陰に隠れてしまうにはあまりにももったいない作品だと太鼓判を押しておこう。


映画として 8/10
子供映画として 7/10
CG映画として 9.9/10

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追記: モーションキャプチャーで撮られたエルフの中に、スティーブン・タイラーエアロスミス)がいます。
ちなみに、黒人の少女を演じたのは、マービン・ゲイの娘、ノーラ(マトリックスリローデッド等の女優)


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追記2
以前「ビッグ・フィッシュ」を感動作としてではなく、アメリカの光と影として捉えた批評を書き、対立意見の食い違いから消去してしまったことがあるのですが、最近のアメリカは「目に見えないもの・夢を信じよう」というメッセージの映画を作り続けているように感じます。(アンティテーゼの「モンスター」もありますが)アメリカ国内の政治的状況と関連しているのでしょうか・・。