デビルマン

デビルマン」   あな、もったいなや、もったいなや・・・。


 「デビルマン」といわれれば、私はすぐさま実家の押入れから一枚の古いレコードを持ち出す。テレビ放映当時の主題歌のレコードを、私は30年後生大事にもっているのだ。当時まだ小学校に上がる前であった私の心を捉えたのは、なんといってもあのデビルマンの、「寂寞感」であった。
 悪魔であるのに、そう生きず、逆に悪魔たちを敵に回して戦うその姿。悪魔であって人間でなく、人間であって悪魔でない。そのどちらにも所属することの出来ないアンビバレントな孤高のヒーロー、デビルマンは、「勧善懲悪」の形態をとったアニメでありながら、非常に特異で、独特の世界観を持つ、傑作であった。
 「デビルマン」のヒーロー像はつまり、人間そのものであるのは容易に想像がつく。人間というのは実は善と悪の両方を兼ね備えていること、そしてそれを自覚しているからこそ、また強い存在となりうること。そういった「デビルマン」の根底に流れるもの、映画はそれを確かに、捕らえようとした。


 同じ高校に通う2人の親友、不動明飛鳥了。明は両親を亡くし、クラスメイトである美樹の家族(宇崎・阿木夫妻)に引き取られ穏やかな毎日を送っていた。
 そんなある日、新エネルギーを探索する飛鳥の父親が、調査中に“デーモン”を呼び覚してしまう。次々と人間を乗っ取り始めるデーモンたち。やがて明の体にもデーモンが侵食するが、明の心は負けず、驚異的な戦闘力を有しながらも、人間の心を持ったデビルマンとなる。そして、彼は人類を守るため、デーモンと戦うことを決意する。
 しかし、デーモンを恐れるあまりに人間たちは互いを殺しあうようになり、世界は荒廃していく・・・


このストーリーを読むと、その世界観自体は、アニメ「デビルマン」(漫画版もだが)をきちんとひきついだものであることがおわかりいただけるだろう。

ところが、である。「ビーバップ・ハイスクール」シリーズや「右曲がりのダンディー」で知られる那須博之監督が悪いのか、それとも脚本を担当したその妻那須真知子が悪いのか、いや、それとも配役を含めた全て東映そのものの責任なのか、この映画は、世紀の大失敗作といわれても仕方がない出来なのである。

 第一に、主役選びが終わっている。明役の伊崎央登ジュノンボーイ出身だからそれは端正な顔立ちだが、そもそも、「ジュノン」と「デビルマン」の組み合わせが良くない。ひょろんひょろんとした彼にデビルマンメイクをさせたとき、何が起こるか・・・苦笑いすら、出ないほどである。
 演技が下手なのは主役にありがちなことであろうが、その「棒読み」のみならず、アクション―たとえば、ワイヤーアクション後の着地のポーズ、といったものでさえ、まともにできていない。これは、監督が役者を上手く動かせなかったからなのかもしれないが、それにしても「マジメにやっています」という風が無い。女性陣の酒井彩名渋谷飛鳥のばっちりと決まったアクションシーンをその後見てしまうと、主役のしまりのなさは一目瞭然である。「下手」なのではない。ただ単に、「真剣にやっていない」のだ。
 一方飛鳥了役は主役と双子の伊崎右典で、なぜか彼のほうが伊崎央登よりは多少はマシである。が、所詮どんぐりの背比べといった感じだ。

 「デビルマン」に双子のジュノンボーイを持ってきた―その時点でおそらく、この映画は終わってしまっているのだ。

 SFXについても、アラがめだつ。その技術がうんぬんというのではない。しかし、その見せ方が問題だ。せっかくのフルCGでの戦闘シーンであるのに、異常にスピードが早く、何が起こっているのか全く分からなかったり、なんだか唐突にCGがでてきて急に消えていったりと、「見せ場」を全く意識していないのだ。CGが多少ちゃちいとしても、ダイナミックさや美しさといった、その見せ方次第で、いくらでもカバーができる。が、「デビルマン」はちゃちいCGを何も考えずに、ただ、時たま、挿入する。こんなCG,いらない。

 映画というのは、ときとして、興業のために主役に話題の人をいれ、その演技力を補うために回りに上手い演技陣を配置したりする。その最たる好例が「キューティーハニー」であった。悪役は皆劇団で活躍する曲者、そして最高の演技者ばかりであった。では「デビルマン」はどうかといえば、悪役は富永愛―最高に美しいでくの坊―で、キーパーソンとなる育ての親が、なんと宇崎・阿木夫妻―ご主人はそこそこだが奥さんが最悪のでくの坊―である。
 前にも書いたが、実は主役を取り巻く女性陣の酒井彩名渋谷飛鳥は、とてもよい演技をしている。アクションもがんばっているし、かもしだすムードもいい。しかし、この二人を凌駕する、ダメダメな他の出演人たち・・・そして意味無くたくさんの有名人(コニシキetc)を登場させているのも、かえって凶と出たのがこの映画であった。

 逆に言えば、ストーリー自体は大変深く、またおもしろいため、酒井彩名渋谷飛鳥が絡んでいて、主役のジュノンボーイたちやいらんCGが出てこない部分は、実は非常によくできていて、面白い作品なのである。(多少冗漫ではあるが)。けれど、これでは、「デビルマン」では、無い。

 あな、もったいなや、あな、もったいなや。
これだけの金を使い、なかなかの演技派美少女二人を従え、原作を受け継ぐ世界観と、深いストーリーを持っていながら、「デビルマン」がでてこない場面のほうがおもしろいといわれてしまう映画。

 東映さん、何がしたかったんですか?

映画として 3/10 ストーリーと美少女二人に免じて
主役 -100/10
デビルマンのコスプレ ある意味10/10