マシニスト (ネタバレ無し)

momochiki2005-05-03

 工場で働く機械工(マシニスト)のトレバー(クリスチャン・ベイル)。すでに365日、寝ていない。極度の不眠症で、骨と皮となった彼の心の癒しは娼婦のスティービー(ジェニファー・ジェイソン・リー)や、空港のコーヒーショップのウェイトレス、マリア(アイタナ・サンチェス=ギヨン)との会話ぐらいのものだが、そんな二人にも「それ以上痩せると、なくなっちゃうわよ」と声をかけられるほどのやせ細り方である。
 工場では、新入りの機械工アイバンと知り合うが、機械の調整中に彼に気をとられ、そのために大事故を引き起こしてしまう。そんな時、トラバーは覚えの無いメモが自宅の冷蔵庫に貼ってあることに気づく・・・。


 スペイン・アメリカ合作のこの映画の監督はインデペンデンスではその名を知られたブラッド・アンダーソン。脚本はこれが二作目となるスコット・コーサー、そしてどこかノスタルジックでありながら、沼の底のような冷たい色合いをたたえた独特の映像は、「10億分の一の男」の撮影監督シャビ・ヒメネスの手によるものである。

 しかし、この映画のストーリーやスタッフよりも話題をさらったのは、体重を30キロ以上落とし、五十数キロのガリガリの姿でマシニスト・トレバーを演じたクリスチャン・ベールである。新「バットマン」にまさに適役の陰鬱さを持ち、また、「アメリカンサイコ」でもクールな殺人鬼ぶりを披露していた彼は、もともと痩せ型のハンサムガイだが、その元の姿が全く想像がつかないほどの、痩せぶりなのだ。痩せる前のトレバーもでてくるのだが、これはなぜか普段の彼よりも若干太めである。「太陽の帝国」のあの坊やがねぇ・・・なんてもう、口が裂けてもいえないほどの、ベールの役者魂を見せ付けてくれるのがこの作品なのだ。
 また、「僕は怖くない」では主人公の母親役を演じ印象深かったアイタナ・サンチェス=ギヨンや、クロネンバーグやカンピオンといった曲者監督に愛される演技人ジェニファー・ジェイソン・リーの確かな演技も、ベールのこの怪演ぶりをひきたてている。

 ストーリーについては、これ以上ふれることは著しく興をそぐことになるから、あえて批評としても語るまい。(明日は、ネタバレ批評版です)
 ただ、この映画の恐怖の見せ方は、超一流であるとだけは断言しておきたい。それは効果的に使われるかの「テルミン」の美しくも不気味な音の効果でもあり、また、あえて解像度が低い風の緑(あるいは赤)の濃い映像で、意図的に荒くショットを転換させながら恐怖を盛り上げていく監督の手腕、そして不気味な子供のゲーム「ハングマン」をはじめ、さまざまななにげない小物の用い方、撮り方のうまさ故でもある。
 最近の恐怖映画が派手になるにつれ忘れてしまった恐怖の色合いがそこにはある。近年のハリウッドが日本ホラーの湿気ある恐怖に魅せられているのは有名な話だが、この「マシニスト」のノスタルジックな、「粗く濃い」恐怖にも、ハリウッドは大いに学ぶべきであろう。

 ベールのガリガリぶりもさることながら、そのストーリー展開、音楽、映像―斬新さが無い、であるとか、「○○○○」そっくりじゃん〜、といった批判を差し引いても、今すぐ映画館に走っても損は無い作品であると、言っておこう。

映画として 9/10
(斬新さ、の点で一点マイナスしたが、私としては、10をあげたいところではある)
ベールの鶏がらぶり 0.0001/0.0001