コンスタンティン

 キアヌ・リーブスが「マトリックス」的な格好よさを見せると鳴り物入りの映画、「コンスタンティン」である。

 ジョン・コンスタンティンは、悪魔祓いを生業とする男。肺がんで余命いくばくもない彼は、悪魔との壮絶な戦いを生き延びてきたハードボイルドだが、利己的な男である。彼が悪魔と戦うのは、かつて二分だけ成功したことで地獄行きが決定してしまった自分の次の死を「天国行き」へするためであり、誰かのためではないのだ。
 そんなある日、天国と地獄の均衡が崩れかけていると感じた彼は、「悪魔が見えた」妹の自殺に不審を抱く女刑事アンジェラ(レイチェル・ワイズ)と共に、その真相を追うことになる・・。


 この映画の要素は複雑だ。それは、キリスト教をバックにしたファンタジーであり、オカルトの世界であり、また、ハードボイルドの世界であり、推理物の世界であり、「●●のアイテムだと敵を倒せる」といったゲームの世界であり、そして、CGで見せるアクション映画の世界である。

 この「要素」はどうやら、原作となっているアメコミ、「ヘルブレイザー」から導入された世界観らしい。ファンサイトによれば、このコミックにはキリスト教的な要素はもちろんのこと、ブードゥーといった世界のオカルティックなものが幅広く登場する。また同時に、そのキャラクター設定や物語のすすみ具合は、いたってハードボイルドで、私が感じた限りでは、ダシール・ハメットや、エド・マクベイン的な世界観を持っているように思う。
 漫画の中でのジョン・コンスタンティンは、ヘビースモーカーで、ハードボイルドで、そして悪魔と契約を交わしており、多種多様なオカルト世界の中をくぐりぬけながら生きている。ハードボイルド+オカルトの世界観と言うのは、そういえば「エンゼル・ハート」以来見かけなかった代物であるから、宗教をも超えたこの設定は圧巻と言えよう。

 さて、映画となった「コンスタンティン」は、漫画の多種多様なオカルト要素、というのをきわめてアメリカ向けに(あるいは西洋向けに)手直ししている。映画の中のジョン・コンスタンティンは、「天国に行きたいから悪魔祓いをする」のであるから、明らかに「キリスト教信者」であるし、刑事アンジェラは、思いっきりカトリックである。用いられたり話にでてくるアイテムは明らかにキリスト教の息のかかったものが多いし(キリストを刺した槍などがその典型である。個人的にはドラゴンの息のほうが楽しそうだ・・・)、そこに繰り広げらるのは、たとえこの地上の世界が「天国と地獄の均衡を保っている、天使と悪魔が死者を取り合っている世界」だとしても、そのキリスト教的序列は変わらない。けっしてキリスト教から離れないところが、この映画の製作者側のあざといところだとも、言える。

 さて、結局のところその改変ゆえ、漫画本来の深みと言ったものが薄まってしまったのが一番の残念なところである。「世の中には多種多様の恐ろしいことが存在する」から、「世の中には天使と悪魔がいます」への改変は、それはたしかに薄いものに成るのは仕方がない。存在する世界の厳しさ(?)が違うのだから、当然ジョン・コンスタンティンのハードボイルドさも、薄くなる。そう、「ダークヒーロー」さすらも、それは薄めてしまうのである。(天国に行きたがるダークヒーローって・・・・)
 しかも、監督のフランシス・ローレンスは、MTV出身の、長編はこれが初めての監督である。映像的、音楽な強調の仕方(たとえば、ジョンのタバコと、すすけた壁紙の部屋にかかるモダンジャズ・テイクファイブなど)は長けていても、ストーリー的な深みを持たせるやりかた、演出の仕方はまだうまくはない。(ラストの屋上での洒落ているはずの場面が陳腐に見えてしまうのは、その深みの出し方の下手さゆえだと思う)最高のCGと(ただし、それは最近のハリウッド映画の傾向どおり、漫画的なものである)数々の宗教的比ゆ、アイテムを用い、それなりの推理物にしあがっているのに、なにか物足りなさを感じさせるのは、やはり世界観の薄さ、そして何より、ジョン・コンスタンティンというキャラクターそのものの描き方の薄さによるものであろう。キアヌ・リーブスファンにとっては、「無駄遣い」と感じる方もおられるのかも、しれない。

 映画としては「ヴァン・ヘルシング」と何か非常に似たものを感じさせる、薄めの娯楽大作として、酷評するほどのものではないと思うが、なにかもう少しうまくやれなかったのか、という残念さは残る仕上がりであった。

 残念さの理由のひとつは、その女優陣である。レイチェル・ワイズは女刑事を好演しており、オカルトの世界に巻き込まれていく表情や語りは非常に上手い。また、大天使ガブリエルを演じるティルダ・スィントンを見たときには、私は思わず「やった!」と叫びたくなったほどだ。彼女は両性具有の物語「オルランドー」の主人公を演じたりと、まさにこの役には適役で、中世的な魅力でガブリエルを演じているのだが、せっかくの逸材をこれまた陳腐に使ってしまうところが、ローレンス監督のもったいないところである。

 5分のMTVであれば不必要であった、セリフや映像的な間合いを「外した」映画として、そしてそれゆえに「ムード」(または映画全体の「トーン」ともいえる)をうまくコントロールできなかった作品として、監督はこの映画を次回作への反省材料としてほしいものである。


映画として 6/10
きっと「ヘルブレイザー・ファン」には 3/10
キアヌの顔が好きな人には 10/10
キアヌの演技者としてが好きな人には 5/10