10億分の1の男

「10億分の1の男」 傑作ミステリアス・サスペンス


 監督・脚本はスペインの新鋭、ファン・カルロス・フレナディージョ。スペイン・ゴヤ賞の最優秀新人監督賞を受賞した、傑作である。



荒涼とした砂漠にある一軒のカジノ。フェデリコはそこで「運」を操る仕事をする男。何不自由ない生活をしていたが、ある日、自分を育ててくれた恩人でもある経営者サムのもとを去ろうと決意する。それを知ったサムは、フェデリコを訪れると熱い抱擁をする−彼の必死の抵抗にもかかわらず・・・。

 7年後、旅客機の墜落事故があり、ただひとり生き残った逃亡中の銀行強盗犯トマスがいた。フェディリコはトマスに、あるゲームにエントリーすれば警察の手からお前を逃がしてやる、ともちかける・・。



 美しいだけの映画というのがある。ストーリーだけが突出した映画、俳優だけが目立つ映画、脚本のよさだけが妙に浮いてしまう映画、奇想ばかりが一人歩きする映画。映像も、ストーリーも、演技も、脚本も・・そういった全てがバランスよく組み合わさることでできあがる傑作、というのは意外に少ないものだ。
が、この「10億分の一の男」は間違いなくその「バランスの良い」傑作のひとつである。

 ゴヤの絵のように陰影の美しい映像、「運」が人々の間をまるで実体があるかのように行きかうというその発想・ストーリー、あくまでも静かで、存在感だけをかもしだす俳優たちの演技に、ミステリー・サスペンスでありながら、ホラー的な要素も兼ね備え、同時に「父と子」の関係までも描いた脚本・・・そういったものが全てバランスよく組み合わさり、見ているものをその世界に完全に引き込んでしまう、そんな映画なのだ。

「ゲーム」とは、そのものたちの「運」を試すものなのだが、その数々のゲームも見所のひとつである。森の中を目隠しして全速力で走り、樹にあたらなかったものを勝ちとし、「運」を交換する・・・・など、その内容はまさに奇想天外だ。

 フェデリコやトマスを追う女刑事とのいたちごっこもスリリングである。よくあるハリウッド映画にありがちな「美人でナイスバディ」な女刑事でもなく、ありがちな「ロマンス」の匂いもなく、リアルに描かれるのだが、そこにまた、「運」が絡む。
 美しい原色とコントラストの中で、登場人物たちのリアルさと「運」の不可思議さが交錯した、ミステリアスでサスペンスフルなストーリーが展開する。

 ハリウッドリメイクも決まっていると聞いているが、おそらくこの「バランスの素晴らしさ」は「バニラスカイ」の時のようにハリウッドの大仕掛けの中で消えてしまうに違いない。リメイク版が話題になる前に、是非見ておいていただきたい逸品である


映画として 9.8/10
(ストーリーが「運」を扱っているため、「大槻教授」な人には受け入れてもらえないこと、ラストがわかりづらいこと、にー0.2)
発想として 100/10
サム役フォン・シドーに  10/10