「キル・ビル」vol.2           究極の筑前煮ムービー!

賛否両論だった前作「キル・ビル」が、「あの映画なんなん?」という人と、「最高!」という人にぱっくりと別れてしまったのは、記憶に新しいだろう。しかし、監督の意図まで考えてみると、なかなか褒めてあげたくなる作品である、と私は書いた。(もちろん、監督の意図なんかどうだっていいんだよ!「全観客を考えさせずに喜ばせる」映画以外はクズだ!!!」って人には、腹が立つばかりでしょうが・・)

 さて、そしてとうとう待ちに待った「キル・ビル」vol.2である。私はこのレビューをいくつか目にしたが、それにはこう書いてあったようだ。「香港映画とウェスタン」へのオマージュである、と。
 しかし、このレビューは大きな間違いである。私は最初にはっきりと、断言しておく。

キル・ビル」vol.2は、

ウェスタン」と「香港映画」と「ロード・ムービー」と「フィルム・ノワール」と「犯罪映画」と「ラブストーリー」と「家族ドラマ」と「ホラー映画」と・・・・

への、オマージュ映画である。

つまり、映画全体へのオマージュなのだ。
くれぐれも、「香港映画とウェスタン」だけに捧げられたものではない。
これを知って見るのと、勘違いしてみるのでは、感じ方が全く違う。だって、これは、タランティーノが精魂込めて作り上げた、究極のオレ味「筑前煮ムービー」なのであるから・・・


かつて結婚式のリハーサル中に所属していた殺し屋集団のボス・ビルの襲撃を受け、愛する夫とお腹の子どもを殺された“ザ・ブライド”(サーマン)。昏睡から奇跡的に目覚めた彼女はビルへの復讐を誓い、襲撃に関わったかつての仲間たちを次々と仕留めていった。残るはバドとエル・ドライバー(ダリル・ハナ)、そしてビル――。さっそく彼女は次なる標的のバドを倒すため、テキサスの荒野へ向かう。一方バドは、もはや殺し屋としての面影もなく、アル中に落ちぶれていた。彼にも与えられた服部半蔵の刀は質屋に出したと言い放ち、兄ビルの忠告も空しく聞こえるばかりだったが…。


「ロード・ムービー」しながら、ザ・ブライドはさまざまな映画の世界を渡り歩く。「ウェスタン」の景色を垣間見ながら「フィルム・ノワール」な世界で「犯罪映画」よろしくビルを捜し求め、「香港映画」的経験で「ホラー映画」風に窮地を脱し、「アクション映画」して「家族ドラマ」を目にし悲恋の「ラブストーリー」へと身を任せる。

これが、うまい具合に融合した「スープ」映画なら、「超エンターテイメント!」と皆が口々にもてはやすのだろうが、タランティーノはあえてそうではなく、ザ・ブライドにそれぞれの世界を「渡り歩かせる」のだ。

 筑前煮は、いろいろな野菜をごろごろと、うまいだしと醤油で煮込んだ料理だ。それをひとつづつ口に運ぶことで、食べ手は「筑前煮」と認識する。二つの具をいっぺんに、ではない。ベースとなるだし味をいつも口に残しながら、それぞれの具をあくまでもひとつづつ、だ。一皿で栄養満点−それが筑前煮の醍醐味なのだ。

 タランティーノのすごいところは、それぞれの「映画世界」の映像の色合い、雰囲気を完璧にスイッチしてみせることである。香港映画の「色合い・雰囲気」と、ザ・ブライドの行く荒野の、映像の鮮明度や色合いを比べれば、それは一目瞭然だ。そして、「家族ドラマ」「ラブストーリー」となっていくそのあくまでも普通のドラマ風セット。その中をタランティーノの根幹、「暴力」がつらぬくわけだが、たとえばペキンパーが描く「家庭」がどこかくすんでいるような、そんなことはタランティーノはしない。そう、これはオマージュ映画。典型的な「普通の家族ドラマ」の中を、いつものバイオレンスが通り抜ける。タランティーノのダシ、はいつもバイオレンスなのだから。

ウマ・サーマンは、この筑前煮をうまく駆け抜けたように思う。そもそもあまり現実感の無い女優さんだが、最後に行くにしたがい名前を取り戻すことで、現実味を帯びた生身の女性へと変貌を遂げている。
 
しかしやはり圧巻はダリル・ハナだろうか。当初、ん?ダリル・ハンナ?ああ、ウマ・サーマン(176センチとか)の背の高さに張り合うっていったら 1リリー・ソビエンスキー(180センチ)でも若すぎ 2 ジーナ・デイビス(178とか)微妙に老けすぎ 3 ダリル・ハンナ(175とか)妙齢 だもんなぁ・・・と思ったのですが、ダリル・ハナのB級うさんくささ(「ジャイアント・ウーマン」だもの・・・)を魅力的に料理していたのは、さすが「トラちゃん」を復活させたタランティーノならではだろう。

 全ての映画へのオマージュ、と私は書いたが、やはり、キル・ビル2で通してみることの出来るのは、アメリカの原風景「荒野」だ。荒野を開拓したパイオニアになぞらえて、自分が見てきた映画たちへ、愛と感謝をこめてささげたオマージュ、それが「キル・ビル」なのだろう。そしてやはり、その全二巻の中で、半分を日本映画に費やしてくれたタランティーノには、ありがとさん、を伝えたい私がいるのである。

 そうそう、オマージュに一つかけているジャンルがあるのがおわかりだろうか。それは「SF映画」だ。けれど、主人公と対決する女戦士が、あの、ダリル・ハンナ(「ブレードランナー」)であるというだけで、それも解決しているように思うのは、私の贔屓目なのだろうか。

結論

筑前煮が好きなら、500円で。
タランティーノの歴史、を見たい人も500円で。
フッツーに映画を見たい人は、「筑前煮」を頭に入れて、300円で。

1すらダメだった人は、お金を別に使いましょう。