SAW 「ソウ」

SAW 「ソウ」 無痛社会の激痛映画

 サンダンス映画祭で セブン meets CUBE として話題をさらい、オーストラリアの脚本・監督のマイナー作品でありながら、全米2000館公開の大ヒット作品となった作品である。SAWとは、のこぎりの意であり、動詞seeの過去形である。


 薄汚れた白タイルの老朽化したバスルーム。医師のゴードンと、ごく普通の若者アダム(脚本家本人)は、そこで覚醒した。どちらも片足を太い鎖でパイプに繋がれ、身動きがとれない。部屋のほぼ中央には、頭部を撃ち抜いた死体が転がっている。
 全くの不可解な状況で、ポケットから見つけたテープを再生すると、生き残りたければ、6時間以内に相手を殺さなくてはならないと告げる声が。張り巡らされた死の策略。しかし、医師には、犯人の心当たりがあった・・。


 この映画の何よりも上手なのは、この、監禁されたバスルームの撮り方である。薄汚れた白いタイル。今にでもにおいだしそうなヘドロでいっぱいの便器や、バスタブ。この部屋に監禁された男たちへ、テープや手紙で命令が下る。タイムリミットのあるそれに従わねば自分たちはおろか身近なものたちまで死に至るというその脅迫は、薄気味が悪くナンセンスである。

 たとえば糸のこぎり。彼らは鉄の足輪でつながれているが、この足輪はのこぎりでは切れない。逃げたかったら、脚そのものを切り落とさねばならないのだ。残虐な神が支配するこの白い部屋では、肉体的・精神的苦痛こそが愛される。

 ストーリーが進むにつれ、観客たちはなんとなくではあるが、なぜ彼らが「選ばれた」のかが見えてくる。(ここがCUBEとは大幅に違う点だ)ある意味で、そしてもうひとつの意味で。合間には、同じ犯人が起こした数々の犯罪風景がさしはさまれる。

数分で頭蓋骨がはじきとばされる拘束具をつけられた女
引火剤を塗りつけられ、ろうそくのある部屋に監禁された男
かみそり状のワイヤーの中に閉じ込められた男

彼らがなぜそこにつれてこられたのかを、犯人を追う刑事(ダニー・グローバー)とともに追うとき、この映画はサスペンスであり、彼らの死に様を目の当たりにするときはホラーであり、強烈な音楽と、際限の無いフラッシュバック映像をこれでもかとみせられるときのこの映画はMTVそのものだ。どこまでも「逃げ場がなく」どこまでも「痛い」この映画は、その隙の無い脚本と、強烈な映像と、斬新な編集で見たものを圧倒する。

 ラストまでその「痛み」をずるずると血の跡とともにひきずり、最後まで観客を驚愕させてくれるこの映画、鑑賞後に深く考えてしまうとなぞは残るかもしれないが、それを差し引いても、確かに、サンダンスを熱狂させるだけの作品であると明言しておこう。

痛いもの、辛いものから逃げる−そんな無痛社会(そしてそれは外の世界で起こる戦争との格差をどんどんと広げて行くのだ)へのアンチテーゼとも受け取れるるこの作品を作りあげたのは、脚本家にして主役の一人である(そして「マトリックス・リローデッド」にも出演している)リー・ワネルと、おそらく中国系と思われる監督ジェームズ・ワンの二人。次回作の出来で今後が決まるコンビだろう。

最後に、監督が中国系だからであろうか、犯人および被害者は全て白人であり、それを追う側は黒人や中国人という、一般的に見られる映画とは非常に異なった人種配置であることも、注目すべきではないかと思う。

映画(サスペンス・ホラー)として 8/10
緊迫感              10/10