「僕は怖くない」

「僕は怖くない」 映像と音楽で語る社会派叙事詩映画 ガブリエーレ・サルヴァトーレス監督(「エーゲ海の天使」1991でアカデミー外国語映画賞を受賞)の2003年監督イタリア作品である。原作は同名のニコロ・アンマニーティーの小説で、脚本も本人が担当した…

SAW 「ソウ」

SAW 「ソウ」 無痛社会の激痛映画 サンダンス映画祭で セブン meets CUBE として話題をさらい、オーストラリアの脚本・監督のマイナー作品でありながら、全米2000館公開の大ヒット作品となった作品である。SAWとは、のこぎりの意であり、動詞seeの過…

モンスター    

「モンスター」 アメリカの車輪に巻かれて (批評ですので、ネタバレが含まれます) かつて「無知の涙」という本があった。永山則夫という死刑囚(少年時代に4人を射殺)が、獄の中で独学、自らの人生を反芻し、その犯罪をするにいたった経緯、心理などを語…

「ドーン・オブ・ザ・デッド」     

「ドーン・オブ・ザ・デッド」 会話のきっかけに。 演技力では定評のある女優、サラ・ポーリーを主役に置き、ロメロの最高傑作をタイトルもそのままにリメイクしたのが、この、「ドーン・オブ・ザ・デッド」である。 看護婦アナ(ポーリー)は一日の仕事を終…

「スクール・オブ・ロック」  

「スクール・オブ・ロック」 子供には勝てません 「愛しのローズマリー」でパルトロウとの絶妙なコンビでほのぼのと笑わせてくれた、ジャック・ブラックの、映画公開当時も評判の高かった、コメディである。 ロックギタリストのデューイ(ジャック・ブラック…

「キル・ビル」vol.2           究極の筑前煮ムービー!

賛否両論だった前作「キル・ビル」が、「あの映画なんなん?」という人と、「最高!」という人にぱっくりと別れてしまったのは、記憶に新しいだろう。しかし、監督の意図まで考えてみると、なかなか褒めてあげたくなる作品である、と私は書いた。(もちろん…

「コラテラル」         

「コラテラル」 佳作『ドラマ』として見る 「ヒート」のマイケル・マン監督に、天下のトム・クルーズが悪役に挑む、と聞けばおのずと期待してしまう「サスペンス・アクション」ムービー、「コラテラル」。ところがどっこい、この映画、「サスペンスアクショ…

「モンスター」              アメリカの歯車に巻かれ

(批評ですので、ネタバレが含まれます) かつて「無知の涙」という本があった。永山則夫という死刑囚(少年時代に4人を射殺)が、獄の中で独学、自らの人生を反芻し、その犯罪をするにいたった経緯、心理などを語った作品である。そこに描かれるのは社会か…

「ステップフォード・ワイフ」 

「ステップフォード・ワイフ」 ヨーダの送る豪華「コメディ」「ステップフォードワイフ」は、ニコール・キッドマン、クリストファー・ウォーケン、マシュー・ブロドリック、ベッド・ミドラー、そしてグレン・クロース、と主役級をまさに豪華にそろえた新作映…

「トゥー・ウィーク・ノーティス」

「トゥー・ウィーク・ノーティス」 「デンジャラス・ビューティー」「恋は嵐のように」の脚本家、マーク・ローレンスが、ガサツの女王・サンドラ・ブロックと、ダメ男キング・ヒュー・グラントを主役にすえ、自分の脚本ではじめてメガホンを取った!のが本作…

カレンダー・ガールズ

実話にもとづいた、快作である。 イギリスののどかな片田舎。女性たちの感心ごとといえば、女性連合の集会や催し物だが、これがまた、思わず笑いたくなるほどのつまらなさ。 そんな時、ウィットに富み、また愛情深かったアニー(ジュリー・ウォルターズ)の…

マルコビッチの穴 

「操る⇔操られる 人間の思考の穴」 人間が主体的な生き物だと説明されれば、あなたは納得できるだろう。 人はモノローグな生き物だ。全てを自分に関連付けて考え、全てを自分のなかで解釈する。所詮会話の相手の言ったことも自分で解釈しているのだから、そ…

「嗤う伊右衛門」 (3) ズレと日本と

ルースベネディクトの「菊と刀」については、一度はどこかで聞いたことがあるかと思う。1944年に出版されたこの本を書いたのは一度も日本へきたことのないアメリカ人であるが、その洞察力はすばらしく、「日本の文化の型」を鋭く語った名著である。それでは…

「嗤う伊右衛門 」  (2) ズレと日本と

まずこの作品で最初に確認しておきたいのは、これが、広くしられた物語を再構築したものであることだ。 本来の四谷怪談は、伊右衛門が出世欲と(色?)欲に目がくらみ、妻のお岩を薬で毒殺、梅と結婚するが、彼女ともども岩に呪い殺されるという話である。 …

「アダプテーション」       創造すること

「アダプテーション」 創造の耐えられない重さ現実と虚構が交錯する映画といえば、最近では、先日紹介した「僕の妻はシャルロット・ゲーンスブール」などであろうか。あの作品では、シャルロット・ゲーンスブールだけが実在のご本人で、本人が本人を演じてい…

「座頭市」  「転倒」の物語−「庶民」バンザイ!

「座頭市」 「転倒」の物語−「庶民」バンザイ! 北野武の作品を貫くものがある。それはもちろん、常に死であるかもしれないが、(故淀川長治先生は、たけしが死と暴力を乗り越えたときにこそ最高傑作を作るだろうと語った)、「たけしくん、ハイ」「菊次郎と…

「ガタカ」 (2)

「ガタカ」 (2) アンドリュー・ニコルの光と影 さて、「ガタカ」より早くに執筆されていたのが公開は後となった「トルーマンショー」であるが、「ガタカ」と「トルーマンショー」の共通点は、その双方が「作られた封鎖社会」からの脱出を描いた物語であるこ…

「ガタカ」            (1) SFとしてドラマとして

「ガタカ」 (1) SFとしてドラマとして ずいぶん前の映画でありながら、語られる機会の多い作品である。かつて映画館で見たものの出来の悪いSFであるという印象があったため、もう一度見直してみようと思い立った。 今回の鑑賞の結果、これは、秀逸なアイ…

「マレーナ」  イタリア版「フォレスト・ガン

「マレーナ」 イタリア版「フォレスト・ガンプ」として 「マレーナ」は一世を風靡した近年のヨーロッパ映画の作品のひとつだ。いろいろな雑誌でも、テレビでも、話題作として大々的に宣伝され、とりあげられた。主人公を演じるのは「イタリアの宝石」モニカ…

「ヘブン」

「ヘブン」 わたしが、あなたと、天に昇るまで。 名匠クシシュトフ・キェシロフスキは、「殺人に関する短いフィルム」で注目されたが、「トリコロール」の三連作が日本では特によく知られているだろうか。トリコロールの青・白・赤のそれぞれの意味、平等、…

「過去のない男」

「過去のない男」 静かで穏やかな生きなおしの日々 列車から降り立つ一人の男。ベンチに力なく座る彼の背後から、がらの悪い若者たちが容赦なく彼を叩きのめした。 しばらくして歩き出した男は駅のトイレで倒れこみ、病院で死亡の宣告を受けるーーが彼は蘇生…

「ラスベガスをやっつけろ!」 みんな、ギリアムに騙されてない??

原作は、ハンター・S・トンプソンの同名ドキュメンタリー。トンプソンは、ゴンゾ・ジャーナリズムの創始者であるが(石丸元章さんなんて、この流れなんでしょうね)、じゃぁどんなものなのかといえば、 "Thompson deplores a rambling rolling style of wri…

「セクレタリー」  変態だって幸せになれるのね☆

かっこよすぎる、ジェームズ・スペイダー!!じゃないや、サンダンス映画祭で特別審査員賞を受賞した、ももちき一押しの純愛変態ラブロマンスである。 (※ももちきは変態ではありません、念のため) リー(ジェイク・ギレンホールのお姉ちゃん)は、自傷行為…

華氏9/11 (3)

『華氏9/11」 批判と声と映像と (3) 昨日、おとといと、「華氏9・11」の内容における、すさまじいまでのブッシュ批判・アメリカ政府、メディアがけして拾わない声、という二点について語ってきた。 しかし、こう書くと、まるで普通のNHKドキュメン…

華氏9/11 (2)

昨日たくさんのかたからコメントをいただいたが、やはりムーア本人は、日本人にはあまり好印象を抱かれていないことがはっきりしたように思う。やはりあの、あまりに激情的で直球勝負なブッシュ批判が、日本人には濃すぎて受け付けられないのであろう。 映画…

華氏9/11(1)

華氏9/11 批判と声と映像と (1) はじめに言っておこう。私はマイケル・ムーア本人は好きではない。メディアに現れるその姿は、「アメリカ的な、あまりにアメリカ的な」、エキサイトしやすく、あまりにストレートに己の主張を語り、お世辞にも知的とも素敵…

「ラスト・サムライ」

「ラスト・サムライ」 日本映画版「カイロの紫の薔薇 「カイロの紫の薔薇」という映画を知っているだろうか。ウディ・アレン監督作品であるが、こんな内容だ。夫とうまくいっていない中年の映画大好き主婦が、映画の中に入ってしまう。(というより、映画の…

「ドッグヴィル」 (2) 「

(批評のためにネタバレしています)ドッグヴィルには、さまざまな人間が住んでいる。 自説を証明したいとやっきになっている自称思想家のトムや、リンゴ農園をやっている元都会人の男とその妻の子沢山一家、村で唯一の黒人とその肢体不自由な娘、家を持たな…

「ドッグヴィル」   人間とはいかに汚ら

ここ数年私が目にした中で、最もよく練り上げられた「小説」、それがこの、ラースフォントリアー(ダンサーインザダーク)監督・脚本の「ドッグヴィル」である。 チョークで引いた線のみでできた、簡単な地図のような、道や家の見取り図(時にドアや窓くらい…

「パンチドランク・ラブ」

「パンチドランク・ラブ」 評論家受けする、不思議・佳作 「パンチドランク・ラブ」とはどかんと一発食らわされたような、そんな一目ぼれのこと。 トイレ周辺小物の製造会社をやっているバリー・イーガン(アダム・サンドラー)の関心事は、バーコードひとつ…